東京高等裁判所 昭和23年(ネ)370号 判決 1949年1月31日
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人は「原判決を取り消す。被控訴人が昭和二十三年二月二十七日群馬縣新田郡世良田村大字女塚字道西乙四百三十三番宅地百五十坪についてなした裁決を取り消す。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」という判決を求め、被控訴人指定代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張は、控訴人において本件土地の賃借人である訴外津久井林太郞が農業を営み七反八畝の農地を耕作し、内五反一畝九歩の農地につき、今囘の農地改革により、開放農地として政府から買い受け得るものであること、並びに同人が本件宅地上の建物を單に居住のためばかりでなく收獲物農具等の收納その他農業経営の目的で使用していることは認めるが、同人の耕作して居る前記解放農地と本件宅地との間には約二十間の距離があり、その間何等の從属的関係を認め得ないから自作農創設特別措置法第十五條により政府において買收するを得ないものである。なお控訴人が本件訴願裁決書の送達を受けたのは昭和二十三年三月二十九日であると述べ、被控訴人指定代理人において本件宅地と本件解放農地との間の関係が控訴人主張の通りであることは認めるが、自作農創設特別措置法第十五條第一項第二号にいわゆる宅地たるには必ずしも当該買收さるべき農地との間に直接の從属関係あることを要せず、自作農となるべき者の農地経営に利用されていることを以て足るのであるから本件買收の措置は正当である。なお控訴人が、その主張の日、本件訴願裁決書の送達を受けたことは認めると述べた外は総て原判決の事実摘示と同じであるからこゝにこれを引用する。(立証省略)
理由
控訴人所有の群馬縣新田郡世良田村大字女塚字道西乙四百三十三番宅地百五十坪について、世良田村農地委員会が、訴外津久井林太郞の申請により、自作農創設特別措置法第十五條に基いて買收計画を立て、なおこれに対する控訴人の異議申立を却下する旨の決定をしたこと、ついで控訴人が昭和二十三年二月十日被控訴人に対し右決定に対する訴願の申立をしたところ、被控訴人は、同月二十七日右申立は相立たない旨の裁決をなし、右裁決書が同年三月二十九日控訴人に送達されたこと、及び、右申請人津久井林太郞は、右宅地の賃借人であつて、農業を営み、七反八畝の農地を耕作し、内五反一畝九歩については、今囘の農地改革により開放農地として、政府から買い受け得るものであることは、いずれも当事者間に爭があり、控訴人は、本件宅地は、本件開放農地との間に直接の從属的関係がないから、自作農創設特別措置法第十五條第一項第二号に基いて買收し得べき限りでないと主張するが、右第十五條の立法の趣旨は今囘の農地改革によつて自作農となるべき者が將來農業経営をして行く上の基盤を強固にするためであるから同條第一項第二号掲記の宅地その他についても農業経営と全然関係のないものの買收はこれを許さないが、いやしくも当該自作農となるべき者の農業経営に必要である限り、これが買收を許す趣旨であると解するを相当とすべく、これを控訴人主張のように狹く解さなければならない根拠も理由もない。殊に右第十五條第一項第一号には「第三條の規定により買收する農地の利用上必要な農業用施設」とあつて、農業用施設については、買收される農地との間に本來從属的関係のあることを必要とするが、第二号掲記のものについては、この制限すらないことによつてもその趣旨が窺われるのである。しかして本件において、津久井林太郞は、本件宅地上に建物を所有しこれに居住するのみならず、收穫物農具等の收納その他農業経営の目的で使用していることは当事者間に爭のないところであるから、本件宅地は、同人の農業経営について必要なものというべく、前記第十五條により買收し得べきものであることは論をまたないところで、從つて右宅地について、世良田村農地委員会のなした本件一連の措置並びに被控訴人のなした本件裁決はいずれも正当であつて何等違法の点なく右裁決の取消を求める控訴人の請求は不当であつて、到底棄却を免れない。
よつて右と同趣旨に出た原判決は相当であつて本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三百八十四條第九十五條第八十九條を適用して主文の通り判決する。(昭和二四年一月三一日東京高等裁判所第一民事部判決)